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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(行ツ)21号 判決

上告人

榎村君子

ほか一名

右両名訴訟代理人

山野巌

被上告人大阪府知事

左藤義詮

被上告人

右代表者法務大臣

高橋等

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人ら代理人山野巌の上告理由について。

論旨は、まず、原判決が自作農特別措置法五条四号により買収除外の指定を受けた区域内にある小作地であつても、同法三条一項二号にいう在村地主の保有小作面積に算入すべきであるとしたことが右三条一項二号の解釈適用を誤つたものであるというにある。

自作農創設特別措置法(以下、自創法という。)三条一項二号は、在村地主に限り一定面積の小作地を保有し得ることを認めている。ところが、右面積の確定につき、同条四項が「第五条第七号及び第八号に規定する農地で命令で定めるものの面積は、第一項第二号……に規定する小作地……の面積にこれを算入しない。」と規定し、ひとしく買収除外地たる同法五条一号ないし六号所定の農地に関して言及するところがないのは、急速かつ広範に小作制度を廃して自作農を創設せんとする同法の基本的目的に徴し、これらの農地の面積は右三条一項二号の保有小作面積に算入する趣旨に出たものと解するのが相当であつて、これがため、同法五条四号の買収除外地に小作地を保有することとなつた在村地主が、都市計画事業の施行に伴ない、農地を全部失うことになるとしても、それは、法の容認するやむを得ない結果といわざるを得ない。

されば、原審の右判断は正当であつて、論旨は、理由がない。

論旨は、また、原判決で保有小作面積に算入した土地には真実小作地とはいえない非農地及び自作地が含まれているため、本件買収は保有小作面積を侵害した違法なものであるというが、原判決は、右算入土地には厳格には自創法二条二項の小作地に該当しないものが含まれており、右限度において本件買収処分には瑕疵があるが、右瑕疵はまだ右処分を当然無効ならしめるものとはいえないと判示しているのであつて、原審の右判断は、その挙示の証拠により適法に確定した事実関係に照らせば是認し得ないわけではなく、論旨は、理由なきに帰し、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官横田正俊 裁判官石坂修一 五鬼上堅磐 柏原語六 田中二郎)

上告代理人山野厳の上告理由

一、昭和二一年法律第四三号自作農創設特別措置法(以下自創法と称す)第三条第一項第二号においては在村地主に保有する小作地は大阪府にありて六反歩(以下保有農地と称す)であることは原審において当事者間に争いなく又裁判所も認めて居る所であるが其の六反には左記の土地は含まれないものである。

A 非  農  地

B 自  作  地

C 買収除外指定地

自創法第五条第五号近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地で市町地農地委員会が都道府県農地委員会承認を得て指定し又は都道府県農地委員会の指定したるもの(以下除外指定地と称す)。

二、非農地とは地目は田であるが既に宅地として建物の敷地となり又は完全に土盛りが行はれて建物の敷地として使用することとなり居る土地にして之れは前記保有農地に含まれないのであつて非農地を除きたる外で六反の保有農地を認めるべきである。

上告人の所有して居つた農地は原審判決添付目録の通り(イ)(ロ)(ハ)記載の土地でありその内非農地は(イ)記載の土地合計八反三畝一三歩である此土地は非農地であり且つ買収除外指定地であるから農地買収はされて居らない。

三、自作地とは地主が自から耕作して居る農地であつても保有農地六反に加へないことになつて居る原判決添付目録の内(ロ)記載の農地の内一、二、三、四、五、の土地は上告人の自作地である旨の主張(原審昭和三三年十月二日附準備書面によりて主張)をなし居るに拘らず之についての判断を脱漏したる違法はある。

四、買収除外指定地とは前述の如く自創法第五条五号により近く土地の使用目的を変更することを相当とする土地であつて之れは全く前記非農地と看做さるべき土地である原審判決添付目録(イ)(ロ)記載の土地全部であつてこれは全部買収せられて居らない従つて之等の土地全部を除きたる土地は原判決添付目録(ハ)記載の農地であつて右(イ)(ロ)を除きたる土地において保有農地六反を残すべきは法律の精神であり且つ斯く解釈すべきである。

五、結論、原審は自創法第三条在村地主に保有する農地六反の解釈を誤り(A)非農地と雖も一部分農耕に摘する部分があれば其の部分は保有農地に加へて計算してもよいと云ふ解釈を採りたる違法あり(B)自作地と雖も実際自分自身において耕作して居る者は自作者と見るが他人を雇入れて耕作して居る者は自作者と看做すことは出来ない。

その農地も保有農地六反の内に加へてもよいと云う解釈を採りたる違法あり(C)買収除外指定地と雖も右除外地は非農地又は自作地でなければ保有農地面積六反の内にそれを加へて計算してもよいという解釈を採りたるものであつて此点は重大なる違法ある以上法律解釈について上告理由とする。

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